マレーシアで「公正証書遺言」をつくる方法と注意点 その1

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マレーシアで日本の公正証書遺言ってつくれるの?
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マレーシア在住の知人より、以下のような相談がありました。

 

「日本に不動産があるんだけど、自分に万が一のことがあったときのために遺言を準備をしておきたいと思っている。

 自分なりにインターネットで調べたところ、日本国外においても公正証書遺言をつくることができる、という記事をいくつか見つけたんだけどそれって本当?」

 

結論から言いますと、

「つくることはできます。
 ただ、よく検討されたうえで、マレーシアの領事館でつくるか、日本へ戻った後につくるかを決定された方がよいでしょう」

という回答になります。

 

まず、「作ることはできます」の部分について説明します。

 

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領事館で一応つくれます
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公正証書遺言というと公証役場に出向いて公証人につくってもらうものが一般的ですが、
海外在住邦人のために、以下のような法律が用意されています。

 

民法984条
日本の領事の駐在する地に在る日本人が公正証書又は秘密証書によって遺言をしようとするときは、公証人の職務は、領事が行う。

 

書いてあるそのままですが、
海外在住の日本人は、日本に戻って公証人さんにお願いする以外にも、居住国の日本の領事さんに公正証書の作成をお願いできるのです。

 

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日本の公証人に比べて手数料が安い!?
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手数料はどれくらいかかると言いますと、
マレーシアの日本国大使館に問い合わせましたところ、一律210RM(現在のレートで計算しますと6,500〜7,000円)とのことでした。
この金額を聞いて、おそらく同業者の方は「やすっ! ほんまかいな!」と突っ込まれたでしょうが(日本の公証役場よりも圧倒的に安いので)、
東京の外務省に直接問い合わせた結果も同じ回答でした。

「日本の公証人にお願いする場合は、相続人の人数や資産の額等によって手数料額は変わるのですが、領事さんにお願いする場合は一律で、しかもこんなに安いのですか?」
とまで聞いてみましたが、それでも「その金額です」との回答でした。

疑り深い私は、大変失礼ながら根拠法令まで聞きまして、
「領事館の徴収する手数料の額を定める法令」というものまで調べてみましたが、
やはりそのとおり210RMと書いておりました。

なお、「この金額はどのように定められているのですか?」と聞くと、
「日本円にして5,780円相当の金額を各国の通貨で換算し、毎年一回決定しています。」
との回答でした。もしこのブログ記事を参考にして、外国で公正証書遺言を作成しようという方がいらっしゃいましたら、その時点での手数料額は変わっている可能性がありますので、事前に領事館へご確認ください。

 

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秘密証書遺言もつくれます
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補足としては、公正証書遺言以外にも、「秘密証書遺言」にも対応していただけるとのことでした。

秘密証書遺言とは、公正証書遺言が遺言のその内容についてまでも公証してもらうのに対し、内容については公証の対象とせず、たんにその遺言の存在のみを公証してもらうものです。

ただ、秘密証書遺言は、自筆証書遺言ほど手続きが簡易でなく、また公正証書遺言ほど証明力がないという、ある意味中途半端な遺言方法であるため、日本ではほとんど利用されていません(秘密証書遺言にも利点や使いみちはありますが、それはまた別の機会に書きます)。

 

ということで、「マレーシアにいながらにして、日本の公正証書遺言を作成することができるか」という問いに対しては、「できます」ということになります。

 

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領事館で公正証書遺言をつくることをすぐにお勧めできない2つの理由
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次に、回答の「ただ、よく検討されたうえで、日本に戻ってから作成するか、マレーシアの領事館で作るかを決定された方がよいでしょう」という部分について説明します。

マレーシア在住の日本人が、公正証書遺言(ないし秘密証書遺言)をつくりたいとお考えになった場合、
私が法務の専門家として、「それなら在マレーシアの大使館(領事館)でお作りになられたらいいですよ。日本で作る場合に比べて費用も安いですし」とお勧めできるかというと、
それはまた別の話しです。

主な理由としては2つあります。

ひとつは、

領事館の方もおっしゃっていましたが、領事館で公正証書遺言を作成されるケースは非常に稀であるため、(失礼ながら)領事さんは遺言に関する法律や実務に精通してらっしゃらないだろうと考えられるからです。実際、私自身これまで司法書士業務の中で数多くの不動産相続案件に関与してきましたが、未だかつて海外の領事館で作成されたという公正証書遺言に出くわしたことがありません。

そのため、日本の公証人に依頼すれば受けられたであろうアドバイスが受けられない可能性があります。

たとえば、司法書士の立場から申し上げますと、遺言の中で不動産の記載方法を誤ってしまったり、「相続」と「遺贈」という文言の使い分けができていなかったりすると、本来の遺志に沿った名義変更ができな事態が考えられます。
もしくは、文言が多義的であるため、ある遺産を相続する者が長男なのか次男なのかがはっきりしない、というようなことも考えられます。

領事さんが実際に公正証書作成業務にあたる場合には、日本の公証人と連絡を取りながらされるのかもしれませんが、
それでも、日本で直接公証人に相談して作成する場合と比べると、上記のリスクは高くなると考えられます。

 

もうひとつの理由としては、

これも領事による公正証書作成サービスがほとんど利用されていないということからくるものですが、
実際に領事認証の公正証書を作成したとして、
遺言者の死後にそれを名義変更等で利用する場合に各所で説明を求められたり(領事作成の公正証書遺言の有効性等に関して)、それによって手続きが遅れたりすることが考えられるからです。
説明さえすれば、基本的には大丈夫(通常の公正証書として扱ってもらえる。)とは思いますが、なんといっても過去に事例がないことは日本では嫌われますので、予想しないような不便が生じるかもしれません。

 

この2つの理由により、私としては、

できる限り、日本の公正証書は日本の公証役場で作成された方がよいのではないか、と今のところ考えています。

 

ただもしスケジュール等の都合により、マレーシアで日本の公正証書遺言を作成したいという場合には、
領事さんに相談する前に、法律の専門家に文案等をしっかりと相談のうえ、領事さんにお願いされるのがよいかと思います。

 

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「自筆証書遺言」という簡易な方法もあります。でも注意は必要、、、
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「マレーシアで日本の遺言をつくる」という点に関する補足としまして、

わざわざ公証役場や領事館(マレーシアでは大使館)へ行かなくても、
マレーシアにおいて紙に自筆で遺言を書くだけでも、日本の法律における「自筆証書遺言」として有効になります(全文を自筆、日付、氏名、印等の要件を満たす必要はあります)。
ただ、自筆証書遺言は、公正証書遺言に比べると「まぎれもなく本人が書いた」ということ等にかんする証明力が弱く、後日その遺言の有効性を争われる余地が高くなる等の不利益がありますので注意が必要です。

自筆証書遺言についても後日記事を書きたいと思います。

 

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日本の遺言だけでは足りない可能性も、、、、、、
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なお、外国に生活の本拠がある日本人にとって、
日本の遺言書作成だけで足りるか(遺志が充分に達成されるか)というとそれもまた別問題です。

たとえば、日本の遺言書において、
「マレーシアのMaybankにある口座は全て長男の甲野太郎に相続させる」
という趣旨の記載をしていたとして(なお、実際に遺言を作成する場合は資産の特定等をより詳細に各必要があります。念のため)、
遺言者の死後、それを長男がMaybankにもっていって「この遺言に書いてある通り、この口座の預金は私が相続することになっているので、すぐに出金してください」と言ったところですぐにそのとおり対応してもらえるかというと、難しいでしょう。

各国によって、相続に関する法律が異なり、「当該国内にある資産は当該国の相続法によって相続手続きを行う」などと定めている国もあるからです。そのような国において、日本の法律に基づいて作成した遺言書をもっていったところで対応してもらえないということは充分にありえます。

ですので、外国の資産に関しては、当該国の相続に関する法律や銀行等の取扱いを調べ、
それに応じた対応(現地の法律に基づく遺言書を残しておく等)ことが必要と考えます。
このあたりのことについても、後日別に記事を書きたいと思います。

 

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今後の掲載予定のブログ記事について
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本稿の続編として「マレーシアで公正証書遺言をつくる方法とその注意点 その2」を近日アップします。
本稿では公正証書遺言を有効に作成するための法律上の要件等について解説できなかったので、そのあたりについて書く予定です。
マレーシアで日本の公正証書遺言をつくってみようという方はもちろん、日本に帰ってから遺言をつくられる方にもご参考いただければと思います。

それでは、今日はこのあたりで。

司法書士 熊木雄介
Mail: info@office-kumaki.name

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