マレーシア法人の取締役・取締役会の権限について。

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こんにちは。司法書士の熊木です。

今日は、マレーシア法人(SDN. BHD.)の取締役(director)、及び取締役会(board of directors)についてお話ししたいと思います。

 

日本の株式会社の場合

日本の会社法における取締役会設置会社では、

「取締役会」
・業務執行に関する意思決定権
・取締役の職務の執行の監督権
・代表取締役の選定

「代表取締役(及び選定業務執行取締役)」
・業務執行権

「代表取締役」
・代表権

という役割分担になっています。

代表取締役以外の取締役は、会社代表権をもたず、取締役会に参加する権利により会社の業務執行に関する意思決定に関与できるに留まります。

 

マレーシア法人の場合

対して、マレーシア法人(非公開会社 SDN.BHD.)においては、
私の理解では、

「取締役会」
・業務執行に関する意思決定権
業務執行権
・業務執行に関する監督権

「取締役」
定款の規定または取締役会からの授権に基づき、下記権限を行使する。
・業務執行に関する意思決定権(但し、法律上、取締役会の専権事項とされているものについては取締役に授権できない)
・業務執行権
・代表権

ということになっています。

※参照
マレーシア会社法131条
Section 131B. Functions and powers of the board.
(1) The business and affairs of a company must be managed by, or under the direction of, the board of directors.
(2) The board of directors has all the powers necessary for managing and for directing and supervising the management of the business and affairs of the company subject to any modification, exception or limitation contained in this Act or in the memorandum or articles of association of the company.

 

日本の会社法実務に慣れている身としてはイメージが湧きにくいですが、「取締役会」自身が一次的には「業務執行権」を持ちます。そして、各取締役は、定款の規定または取締役会からの授権に基づき業務執行権や代表権をもつという順になります。逆に言うと、定款の規定または取締役会からの授権がない限り、個々の取締役は業務執行権や代表権はもちません(とはいえ、個々の取締役に代表権が与えられていると信じて当該取締役と取引をした第三者に対して、代表権の授権がなかったことを対抗できるかどうかは別問題です)。

 

マネージング・ディレクターについて

多くの会社の定款において、「マネージング・ディレクター Managing Director」を選任できることやその権限が定められています。
この「マネージング・ディレクター」という役職は、日本の会社法上の「代表取締役」として訳されることが多いように思いますが、実際は違うものです。日本の「代表取締役」は会社法上にその権利義務が定められており、取締役会設置会社においては必須の機関であり、会社法の規定にもとづき会社を代表する権限を持つ役職ですが(他の取締役は原則として代表権をもたない)、マレーシア法人のマネージング・ディレクターは会社法上の概念ではなく、必須の機関でもなく、あくまでも各会社の定款の定めに基づく役職にすぎません。ですので、与えられる権限についても、定款の規定内容や選任の際の取締役会の判断によりますので、日本の「代表取締役」ほど一様ではありません。例えば、定款上(もしくは選定の際の取締役会決議上)、「マネージング・ディレクター」のみに会社代表権を与えているケースもあるかもしれませんし、「マネージング・ディレクター」以外のディレクターにも代表権を与えていることもあります。このあたりのことは、日本において「社長」や「会長」という役職が会社法上の概念ではなく、各会社の個別のルールによって権限が異なることと似ています。

 

表見的権限(Ostensible Authority)について

上記のとおり、「各取締役は、原則として会社の業務執行権や代表権をもたない(定款の規定または取締役会から授権を受けることでそれらの権利を得ることができる)」というのが私の理解ですが、そのことを社外の善意の第三者に対して対抗できるかどうかというのは別問題ですので注意が必要です。

どういうことかと言いますと、
代表権があるような肩書きをもっていたり、代表権があるような振る舞いをする取締役と取引をした第三者にとって、取引をした後に「実はこの取締役には代表権がなかったので取引は無効とさせてください」と相手方会社から言われると非常に困りますし、勘違いされるような肩書きを与えたり、取締役の業務監督に過失がある相手方会社との間の結論としては不合理です(第三者にといって、相手方の会社の社内のルールや適正に授権決議が行われたかどうかを知ることは非常に困難ですので)。
したがいまして、マレーシア法の法源であるコモンローには、「会社が権限を与えたとみなされるような場合等においては、善意の相手方保護のため、その者(本来は代表権を持たない者。)の行為を会社に帰属させる」という考え方があり、その考えはマレーシアにおいても適用されるということになっているのです(日本にも、「表見代表取締役」という似た制度があります)。つまり、代表権のない取締役がした契約についても、会社が責任を負わなければならない場合があるということです。

とはいえ、第三者に対して対抗できないとしても、社内のルールに基づき、その行為をした取締役に対して損害賠償請求をすることは可能です。そのことが抑止力となり、取締役の勝手な行動を防ぐことにもつながりますので、社内の定款や契約書や議事録をきちんと整備しておくことは非常に重要です。

すこし脱線しますが、本来代表権を持たしていない従業員などに箔を付けたり対外的信用を持たせるために高い肩書きをつけることも、表見的権限が適用される可能性があるので注意が必要です。

 

今日は以上です。

弊社では、マレーシア法人の定款見直しについても、現地法律事務所との恊働によりサポートさせていただきます。
会社設立当時、あまり深く検討することなく、カンパニーセクタリーが用意した定款をそのまま採用した場合などは、実は会社の実体と合っていなかったり、ヒヤリとするような条項が含まれていることがあります。
どうぞお気軽にご相談ください。

司法書士熊木雄介
Mail: info@office-kumaki.name

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