こんにちは。
KSG Holdings Ltd.の司法書士 熊木です。
マレーシアにお住まいの皆様、あるいはこれから移住を検討されている皆様、資産運用は順調でしょうか。
本日は、マレーシアを拠点に米国市場へ投資を行う際、特に「米国債ETF」をポートフォリオに組み入れる上で避けて通れない「源泉税」の問題について、私の実体験と、現時点のアプローチについて共有したいと思います。
すでに資産運用の知識をお持ちの方であれば、投資効率を最大化するために税務コストの管理がいかに重要かをご存知かと思います。今回は、証券会社による対応の違いにも触れつつ、今私が取っている具体的な戦略を掘り下げていきます。
マレーシアからの米国投資:源泉税の基本ルールと例外
まず、前提知識のおさらいです。以前にも何度かこのブログでもお伝えしたとおり、マレーシアと米国は租税条約を締結していません。そのため、マレーシア居住者が米国籍の株式やETFに投資を行い、配当金や分配金を受け取る場合、原則として米国の国内法に基づき30%の源泉税が課税されます。
しかし、ここからが重要なポイントです。米国の税法には、非居住者に対する優遇措置として「ポートフォリオ利子免除(Portfolio Interest Exemption)」という規定が存在します。これにより、米国債や一部の社債などから生じる「利息」については、租税条約の有無に関わらず、源泉税が免除される仕組みになっています。
つまり、理論上は、米国債ETF(例:TLT, IEF, VGSHなど)からの分配金は米国債の利息に由来するため、源泉徴収された30%は後から還付を受けることができるはずなのです。
証券会社による対応の違い
理論は上記の通りですが、マレーシアにおける実務は少し複雑です。私は以前、Moomoo MalaysiaとInteractive Brokers (IBKR) の両方の口座で、TLT、BND、IEFといった米国籍の債券ETFを保有していました(後述しますが、いまはアイルランド籍ETFに変更しています)。これらのETFは毎月分配金が支払われますが、着金時には一旦、米国側で30%の源泉税が引かれ、残りの70%が入金されます。
問題は、その後の還付プロセスにおける証券会社の対応の差です。
Interactive Brokersの場合 非常にスムーズです。私の方で特別な手続きをする必要はなく、前年度に徴収された源泉税が、翌年の1月から2月にかけて自動的に口座へ還付されます。これは制度通りの運用と言えます。
Moomoo Malaysiaの場合 状況は異なります。私の経験では、2024年の秋頃までは、源泉徴収された翌月には自動的に還付が行われていました。しかし、それ以降パタリと還付が止まり、現在に至るまで返還されない状態が続いています。
この件についてカスタマーサポートに問い合わせを行いましたが、返ってくるのは「マレーシアと米国は租税条約を締結していないため、分配金には30%の源泉税が課せられます」「税務のアドバイスは行っていませんので、専門家にご相談ください」という定型的な回答ばかりでした。
債券利息に対する免税規定は租税条約とは別の話であること、以前は還付されていた事実、他社では問題なく還付されている点などを説明し、なぜ方針が変わったのかを問い質しましたが、進展は見られず、私は追求を断念しました。
教訓: マレーシアでは、金融機関の対応が統一されておらず、ケースバイケースであることが少なくありません。私のMoomooでの経験が一律の対応であると断言はできませんが、証券会社や時期によって、本来受けられるはずの還付が受けられない、あるいは非常に手間がかかるリスクがあるという現実は認識しておくべきです。
解決策としての「アイルランド籍ETF」
米国籍ETFを利用する場合、上記のような「証券会社リスク」や還付手続きの煩雑さが付きまといます。そこで、以前から本ブログで推奨しているのが、アイルランド籍の債券ETFを活用する方法です。
私は現在、米国籍ETFへの新規投資は控え、アイルランド籍ETFを通じて米国債へ投資する形にシフトしています。
アイルランド籍ETFのメリット
- 源泉税務の簡素化と確実性
アイルランド籍ETFを利用した場合、ETF内部で受け取る米国債利息に対する源泉税は免除されます。
実際、私が投資しているアイルランド籍ETFの財務諸表を確認した範囲では、米国への源泉税支払いは計上されていませんでした。
これは、債券利息を満額享受できていることを示唆しています(※ただし、将来的な変更の可能性や、私が全てのケースを保証できるわけではない点はご留意ください)。
結果として、ETFから私たち投資家へ分配金が支払われる際、源泉税は引かれず満額が着金します。 - 「累積型(Accumulating)」の選択肢
米国籍債券ETFの多くは毎月分配型ですが、アイルランド籍ETFには分配金を出さずにファンド内で再投資する「累積型」の選択肢があります。
金利上昇局面でETFの基準価額が下落したとしても、累積型であれば、分配金が自動的にその時点の(高くなった)新しい金利で再投資されていきます。
投資効率の観点からも、これは大きなメリットです。
現在の市場環境における債券戦略
最後に、私の具体的な投資対象と戦略について触れておきます。私はアイルランド籍ETFを用いて、以下のようにデュレーションを調整しています。
少し視点を広げますが、パンデミック前の「低インフレ・低金利」時代であれば、ポートフォリオにTLTのような超長期債を組み入れておくことは、株式暴落時の強力なヘッジとして機能しました。不景気になれば金利が急低下し、債券価格が暴騰するからです(レイダリオの全天候型ポートフォリオでも40%を長期米国債にすることが推奨されていました)。
しかし、インフレがくすぶり続ける現代においては、その常識を疑う必要があると考えています。2022年に経験したように、インフレと株式暴落が同時に襲ってくる(スタグフレーション的な)リスクは排除できません。インフレ退治のために中央銀行が利上げを続ければ、デュレーションの長い超長期債ほど価格は大きく下落します。
また、仮に不景気型の不況が来たとしても、米国の財政状況悪化やインフレ懸念が根強ければ、リスクオフの逃避資金が向かうのはせいぜい10年債あたりまでかもしれません。20年超の債券には、期待するほど資金が流入してこない(=ヘッジとして機能しない)懸念を私は抱いています。
こうした分析に基づき、現在の私のポートフォリオでは、債券部分のデュレーションを短めに設定し、7~10年米国債ETF(IDTM)をメインに据えています。同時に、インフレへの備えとしてゴールドやコモディティETFも組み入れ、多角的なリスク分散を図っています(ロールオーバーによる価格低減が大きいコモディティETFは本来長期保有に適していませんので、ロールオーバーコストを抑えるアクティブ運用を行っているETF(ENCO.L)を使っています。その分、コモディティ価格の暴騰への反応は少し遅れるリスクはありますが)。
マレーシアからの資産運用は、税制や金融インフラの違いを理解し、賢く立ち回ることが求められます。選択肢が多くあり、それぞれの選択肢にメリットデメリットがありますので難しいですが、本記事が、皆様の資産運用戦略の一助となれば幸いです。
それではまた。
2026年2月8日
熊木 雄介

