こんにちは、KSG Holdings Ltd.の司法書士 熊木です。
本日は、以前にも少し書きました「マレーシア居住者が米国ETFや米国株式に投資する際の留意点」について、私の最近の経験を交えてお話しさせていただきます。
まず初めにご注意事項を書いておきますが、
本記事の内容は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の投資アドバイスを提供するものではありません。また、私は税務や投資の専門家ではなく、国際的な税務は非常に複雑で、頻繁に制度変更がある点にご留意ください。本記事の情報が最新かつ正確であることを保証するものではありませんので、投資をお考えの方は、必ずご自身で最新の情報を確認し、専門家にご相談いただくことをお勧めいたします。
1. マレーシア居住者の米国株投資における課題
過去記事:マレーシア居住者が海外ETF(S&P500など)を購入する際に調べたこと(源泉税・プラットフォーム等) – Kumaki Blog
以前、上記の記事において、マレーシア居住者が米国株式や米国ETFへ投資する際の留意点について触れました。その中で述べた重要な点は以下の通りでした:
– マレーシアと米国の間に租税条約がないため、米国からの配当に対する源泉税が30%と高率になる
– この高い源泉税率を回避する方法として、アイルランドで組成されたETFを購入することで、源泉税を15%に抑えられる可能性がある(アイルランド籍のETFにもS&P500に連動するものやオルカンETFがある。アイルランド籍のETFはInteractive Broker証券等を使うことでロンドン証券取引所にて購入可能)。
2. 実際の投資経験:米国籍ETFとアイルランド籍ETFの比較
この理論を検証するため、実際にアイルランド籍ETFと米国籍ETFの両方に投資し、最近分配金を受け取りました。その結果を以下に共有いたします。
2.1 米国籍ETFからの配当
米国籍ETFからの配当に関しては、予想通り30%の源泉税が控除されました。具体的な流れは以下の通りです:
1. ETFからグロスの配当額(例:100ドル)の通知
2. 実際の支払日に30%の源泉税が控除され、70ドルのみ入金
3. 証券口座のステートメントにて、内訳、つまりグロスの配当金額(100ドル)、源泉税(30ドル)、ネットの受取額(70ドル)を確認することが可能
2.2 アイルランド籍ETFからの配当
一方、アイルランド籍ETFの場合はETFから通知された配当額の満額が振り込まれました。
ただ、これはアイルランド籍ETFを使うことで源泉税がゼロになったということではないようで、
仕組みを調査したところ、以下のような流れになっていることがわかりました:
1. ETFが保有する米国株式等からアイルランドETFに対して配当が支払われる際に15%の源泉税が控除される
2. アイルランド籍ETFから投資家(私)への配当支払い時には追加の源泉税控除はない
この仕組みをより理解するために、Bogleheadsのウェブサイトに掲載されている図が非常に参考になりました。その図によると:
– 米国ETF(US Regulated ETF)の場合:
保有銘柄 → ETF(源泉税なし) → 投資家(30%源泉税)
– アイルランドETF(Ireland Regulated ETF)の場合:
保有銘柄 → アイルランドETF(15%源泉税) → 海外投資家(追加源泉税なし)
3. アイルランド籍ETFの実際の源泉税率
証券会社のステートメントだけではアイルランド籍ETFが実際にどの程度の源泉税を支払っているかが確認できなかったため、保有しているETF(VanguardのオルカンETF)の年次報告書(Annual Report)自体にアクセスして財務諸表を確認しました。
2023年度の損益計算書によりますと、
– このETFが2023年中に投資先から得た配当収入(Dividend Income):USD 362,329,280
– このETFが2023年中に課せられた税金:USD 46,030,550
と読めます。
アイルランドではETFの所得には課税されないようですので、このTaxationの欄に計上されている金額はほぼ源泉税であるかと予想されますが、念の為その内訳を確認したところ以下のとおりでした。
– このETFが2023年中に課せられた源泉税: USD 41,917,155
これらの数字から、得た配当収入に対する源泉税率を計算すると、
USD 41,917,155 ÷ USD 362,329,280 × 100 = 11.5688%
このアイルランドETFは受け取った配当に対して約11.57%の源泉税を支払っていることになり、
当初の調査のとおり、30%ではなく低い源泉税率が適用されている可能性が高そうです。
この計算結果が当初調査した税率15%を下回っている理由としては、以下のような可能性が考えられます:
1. このETFは米国以外の企業にも投資しているため、一部の国からの配当に対しては源泉税が課されていなかったり15%未満の税率の国がある。
2. 米国内でも、特定の条件を満たす投資先については源泉税の免除や減免がある。
ひとまず、米国籍ETFの30%と比較すると、アイルランド籍ETFを通じて投資することで、配当に対する源泉税をかなり抑えられている可能性が高そうなことが確認できました。
4. アイルランド籍ETFのその他のメリット
配当に対する源泉税の優位性に加えて、アイルランド籍ETFには以下のようなメリットもあるのではないかと考えています。
4.1 相続時の課税に関するメリット
米国ETFの場合、米国との租税条約がないマレーシアの居住者である我々の場合、相続発生時に適用される米国の遺産税(Estate Tax)についても調査や検討が必要になるかと思いました。
一方、アイルランド籍ETFの場合、私の調査では、
– 相続の対象となる遺産は、米国株ではなくあくまでもアイルランドに登録されたETFの株式であるため、米国の遺産税の対象とはならない(はず)。
– 現時点では、アイルランドは非居住者が相続したアイルランドETF株式に対して相続税を課していない。
という結論である可能性が高いと感じました。
もちろんアイルランド側の今後の税改正を注視する必要はありますし、今後、アイルランドETFも遺産税の対象になる可能性はありますが、調査をしながら感じた私の印象としては、アイルランド籍ETFのかたちで保有をしていたほうが、将来的にも資産税や相続税のリスクは低いように感じました。
4.2 キャピタルゲイン税に関するメリット
キャピタルゲインへの課税に関しては、私租税条約の有無にかかわらず、現時点では米国に居住していない外国人に対して米国のキャピタルゲイン税は適用されないようです。そのため、現行の税制下では、この点に関して米国ETFとアイルランドETFの間に大きな違いはないと考えられます。
5. アイルランド籍ETFのデメリット
メリットがある一方で、アイルランド籍ETFにはデメリットもあります:
5.1 取引コスト
アイルランド籍のETFはロンドン証券取引所での購入となるため、アメリカ籍ETFを購入する場合と比べると購入時の手数料が若干高くないです。Interactive Broker証券経由の場合、米国籍ETFであれば最低手数料がUSD 1 ですが、アイルランド籍ETFの場合は最低手数料がUSD 4でした。
5.2 信託報酬
米国ETFと比較して、運用規模や投資家数が少ない傾向にあるため、信託報酬が若干高めに設定されているものが多いです。
例えば、オルカン型ETFの場合、
– 米国籍ETF(Vanguard VT):信託報酬0.07%
– アイルランド籍ETF:Vanguard社で0.22%、Invesco社で0.15%
という具合でした。
6. 具体的な比較例
同じVanguard社のオルカンETFに100万円を預け、年間配当リターンが1.5%だと仮定した場合の比較:
VT(アメリカ籍ETF):
– 信託報酬:年率0.07%(年間700円)
– 源泉税:年間配当15,000円×30%=4,500円
– 合計コスト:5,200円
VWRD(アイルランド籍ETF):
– 信託報酬:年率0.22%(年間2,200円)
– 源泉税:年間配当15,000円×15%=2,250円
– 合計コスト:4,450円
この例では、信託報酬の差を考慮しても、アイルランド籍ETFの方が若干有利になっています。
とはいえ、年間に少額を何度も積み立てる場合などは購入時の手数料の差(USD 4 – USD 1)を考慮すると逆転する、というような場合もありそうです。
7. 結論と注意点
以上の比較から、信託報酬が低いアイルランド籍ETFを選べば、現時点ではマレーシア居住者にとってアイルランド籍ETFの方が有利な面が多いように見えます。配当源泉税の軽減と相続税に関するメリットは魅力的です。
しかし、以下の点に注意が必要です:
1. アイルランドの税制も将来変更される可能性があります。
2. 投資家の居住国が変わったり、新たな租税条約が締結されたりすれば、状況が大きく変わる可能性があります。
3. ETFの選択や配当率によっては、米国ETFの方が有利になるケースもあり得ます。
したがって、定期的に自身の投資戦略を見直し、最新の情報に基づいて判断することが重要です。また、重要な投資判断を行う際は、必ず税務や投資の専門家にご相談いただくことをお勧めいたします。
最後に繰り返しになりますが、本記事の内容は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の投資アドバイスを提供するものではありません。投資にはリスクが伴いますので、ご自身の責任において判断していただきますようお願いいたします。
おまけ:マレーシア株式への投資
マレーシア居住者がマレーシア株式に投資する場合、配当やキャピタルゲインに対する課税はありません。
Moomoo証券などで口座を開設することで簡単にマレーシア株投資を始めることもできますのでせっかくマレーシアに住んでいるわけですから日々の生活の中からマレーシア企業のテンバガー株を見つけていただくのも面白いかと思います。
Moomoo Malaysia – One App to Trade Malaysia & US Stocks
最近のお仕事
ラブアン法人やビザ申請のご依頼は相変わらず多いですが、一般のマレーシア法人設立やラインセンス・ビザ申請のサポート、PVIPの申請や契約書作成、遺言書作成、そして何より既存クライアント様の決算のサポート(会計事務所とのやり取りのサポート)なども重なり、かなりバタバタとしております。仕事量を調整するため、今月はブログ更新やTwitter(X)での発信は控えておりました。
ラブアンの就労ビザに関しては今も申請から1ヶ月から1ヶ月半前後で認可が降りるケースが多いですが、最近新しく加わった移民局の担当者が証明写真に関する独自のルールを持ち出してきて眉毛・おでこ・耳がすべてはっきりと見えている証明写真でないと不可と言われて撮り直しということがありました。就労ビザ申請の準備をされている方で長髪の方や前髪がある方はできるかぎり前髪がおでこにかからないように髪を後ろにまとめて撮っていただく方が安全かと思います。
それではまた。
2024年6月30日
司法書士 熊木 雄介
Email: kumaki@jm-experts.net
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※ 弊社は、毎月複数件のラブアン法人設立、就労ビザ申請、法人口座開設をお手伝いさせていただいております。また、我々司法書士には守秘義務がありますので、安心してご相談くださいませ。
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