皆さまこんにちは。
神戸とマレーシアを行き来する司法書士の熊木です。
今日は「マレーシアで公正証書遺言をつくる方法とその注意点 その1」の続きを書こうと思っていたのですが、予定を変えまして「マレーシアで今すぐに有効な遺言を残す方法」という記事を投稿させていただきます。
というのも、公正証書遺言のことよりも先に「自筆証書遺言」について書いておいた方がよいと思ったのです。
例えば、
いまマレーシアに住んでいる方が、ある日、
「あ、遺言をちゃんと書いておいた方がいいな。明日交通事故に巻き込まれて死んでしまう可能性だってあるわけだし」
と思い立たったとしても、
公正証書遺言を書くには公証人や領事とのスケジュール調整も要りますし(先日書いたとおり、日本の公正証書を日本でつくる場合は公証人、マレーシアでつくる場合は領事にお願いすることになります)、証人となってくれる人を2人用意しないといけないですし、せっかく費用と手間をかけてつくるからにはミスが無いように精査が必要ですから何かと時間がかかります。思い立った翌日につくる、というわけにはなかなかいきません。
その点、自筆証書遺言であれば、費用もかからないし(作成について専門家に相談する場合は当然費用が発生します)、証人をたてる必要もありませんので、今日思い立って、明日どころか今日つくることさえ可能です。
ですので、このブログの先日の記事をご覧になられて「自分も遺言を残しておかないとな」と思われた方に対して、
先にお伝えするべきは「公正証書の具体的な作り方」よりも先に「とりあえず自分の遺志を日本の法律上有効な遺言としてすぐに残す方法」だと思いました。
「マレーシアで今すぐに」というタイトルにしておりますが、内容としては東南アジア、欧米その他海外在住全ての日本人の方も同じように遺言を作成することができます。
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はじめに、とても大事な注意点
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前回の公正証書遺言についてもそうですが、
私が述べているのは「日本の」遺言の作り方であって、「マレーシアの」遺言ではありません。
この遺言を作成したとしても、マレーシアにおける遺産についてはこの遺言のとおりに名義変更できないことや関係機関に対応してもらえないこともありますのでご注意ください(マレーシアの遺産に関しては別の手当が必要です)。
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自筆証書遺言とは?
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さて、それでは自筆証書遺言について解説します。
まず、自筆証書遺言とは何でしょうか?
自筆証書遺言とは、その名のとおり、「遺言者自身が自筆でしたためた遺言」のことです。
民法には3種類の遺言作成方法が「普通の方式」として定められていまして(自筆証書遺言、秘密証書遺言、公正証書遺言)、
そのうちの一番簡易な遺言の作成方法です。
何が簡易かといいますと、秘密証書遺言と公正証書遺言という方式は、その作成過程において公証人に関与してもらう必要があったり、証人を2人以上たてる必要があるのに対し、自筆証書遺言は遺言者自身の行為のみで完結するのです。
今このブログを見ている方が、このブログをご覧になるのをやめて、
お手元にあるレポート用紙の一枚に「私は遺産の一切を妻である甲野花子へ相続させる。平成何年何月何日 甲野太郎」と全文を自筆で書いて、印を押せば、それで有効な遺言ができあがります。
法律上の要件としては、公証役場へ持っていく必要もないですし、証人に立ち会ってもらう必要もありません。
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注意! ここを押さえないと自筆証書遺言は無効になる!
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自筆証書遺言はとても簡易な方法なのですが、
以下のポイントを外してしまうと、せっかく書いた遺言が無効になってしまいます。
まずは、以下の民法の条文をご覧ください。
民法968条
自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。
2 自筆証書中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。
自筆証書遺言をつくる際に絶対に外してはいけないことがこの条文に記載されています。
とくに第1条が重要です。
すなわち、
1、全文を遺言者自身が自筆
2、日付を書く
3、氏名を書く
4、印をおす
この4要件は絶対に外してはいけません。
ひとつでも満たしていない事由がありますと、遺言全体が無効となります。
以下、各要件について順に解説します。
1、全文を遺言者自身が自筆
自筆である必要がありますので、パソコンやワープロで書くことは認められません。
「自筆」が要件ですので、当然、ビデオにとって残すことや音声で残すのもアウトです。
「愛するマレーシアの風景をバックに遺言を語る」というのも風情があっていいですが、遺言は書面でしっかり残しましょう。
全文自署が要件ですので、一部でも他人に書いてもらってはいけませんし、一部をパソコンで書くことも駄目です。
たとえば、「遺産の目録も記載したいけど、手書きで書くのは大変だからパソコンで書いたものを添付しておこう。その他の大事な部分は自筆で書くから大丈夫だろう」、これもアウトです。全てを自筆で書きましょう。
2.日付を書く
日付も絶対に必要です。
「平成25年8月吉日」等と曖昧に書かず、「平成25年8月15日」と明確に記載してください。
また、遺言を書いた日を正確に記載しましょう。
本当は平成25年8月15日につくったのに、平成24年5月12日という遡った日付を書くことも駄目です。
日付はとても重要です。
遺言者の死後に内容が抵触する2通の遺言書が見つかった場合、後の日付でつくられた遺言の方を遺言者の最終の遺志として有効と扱うことになっているからです(民法1023条参照)。
海外で自筆証書遺言を書く場合、もし日本との時差が大きい国で書くとすれば「日本はすでに8月26日だけど、こちらはまだ8月25日。どっちの日付を書けばいいんだろう」と悩まれるなんてことがあるかもしれませんが、まあその程度の誤差であれば実務上はどちらの日付で書いたとしても問題になることはないでしょう。
3.氏名を書く
誰がこの遺言を書いたのか明確にするために、氏と名をはっきりと記載してください。
普段文章を書いたりするときにペンネームを使われている人も、遺言を書く場合は戸籍上の漢字をつかって本名を書いてください。
海外に住んでいると自分の氏名をローマ字で書く機会が多いかもしれませんが、ローマ字での記載もやめましょう。
一応述べておきますと、ペンネームやローマ字で書いたとしても本人との同一性が確認できるなら有効として扱うといわれています(判例として大判大4・7・3)。しかしそれはあくまでも例外的な扱いですので、あえてペンネームで書くことはせず、戸籍上の氏名を書きましょう。
4.印をおす
「マレーシアに実印をもってきてない!」
という人もいるかもしれませんが、自筆証書遺言で要求されている印は認印で結構です。
認印さえない場合は、「拇印でも足りる」とした判例もあります(最判平元・2・16)。
氏名の後ろに、ギュッと力強く、印影が欠けることの無いようにしっかりと押しましょう。
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長くなるので、続きは次回!
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次回の「マレーシアで今すぐに有効な遺言を残す方法 その2」では、
・夫婦で遺言を残す場合のポイント
・マレーシアでつくった遺言も有効?
・自筆証書遺言だけでは足りない?
等の内容でお届けします!
司法書士 熊木雄介
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