こんにちは。
KSG Holdings Ltd.の司法書士の熊木です。
今回の記事では、「ラブアン税制の対象となる業種」についてシェアさせていただきます。
ラブアン税制の対象となる業種とは？
2019年のラブアン税制の改正以前は、特に業種の制限はなく、基本的には全ての業種がラブアン税制の対象となり、優遇的な税率を享受できるということになっておりました。
しかし、2019年以降の一連のラブアン税制の改正の結果、現在では、
単にラブアン法人として設立しただけで当然にラブアン税法（ラブアン事業活動法：Labuan Business Activities Tax Act。通称「LBATA」）の対象となるわけではなく、
財務省が定めた特定の業種のみがラブアン税制の対象になるとされています。
2023年10月現在、ラブアン税制の対象となる業種は以下のとおりです（※ご参照記事（英語））。
1．Labuan insurer, Labuan reinsurer, Labuan takaful operator or Labuan retakaful operator（ラブアン保険会社、再保険会社、タカフル事業者またはラブアンのリタカフル事業者）
2．Labuan underwriting manager or Labuan underwriting takaful manager（ラブアン保険引受マネジャー、または引受タカフル・マネジャー）
3．Labuan insurance manager or Labuan takaful manager（ラブアン保険マネージャーまたはタカフルマネージャー）
4．Labuan insurance broker or Labuan takaful broker（ラブアン保険ブローカーまたはタカフル・ブローカー）
5．Labuan captive insurer or Labuan captive takaful （ラブアンのキャプティブ・インシュアラーまたはキャプティブ・タカフル）–
（a）Labuan first party captive insurer or Labuan first party captive takaful (ラブアンのファースト・パーティ・キャプティブ保険会社またはラブアンのファースト・パーティ・キャプティブ・タカフル); または、
（b）Labuan third party captive insurer or Labuan third party captive takaful （ラブアンのサード・パーティ・キャプティブ保険会社またはサード・パーティ・キャプティブ・タカフル）
6．Labuan bank, Labuan investment bank, Labuan Islamic bank or Labuan Islamic investment bank （ラブアン銀行、ラブアン投資銀行、ラブアン・イスラム銀行、ラブアン・イスラム投資銀行）
7．Labuan trust company（ラブアン信託会社）
8．Labuan leasing company or Labuan Islamic leasing company（ラブアンのリース会社またはラブアンのイスラム・リース会社）
9．Labuan credit token company or Labuan Islamic credit token company（ラブアンのクレジット・トークン会社またはラブアンのイスラム・クレジット・トークン会社）
10．Labuan development finance company or Labuan Islamic development finance company（ラブアン開発金融会社またはラブアン・イスラム開発金融会社）
11．Labuan building credit company or Labuan Islamic building credit company（ラブアン・ビルディング／クレジット会社またはラブアン／イスラム・ビルディング・クレジット会社）
12．Labuan factoring company or Labuan Islamic factoring company（ラブアンの債権買取会社またはラブアンのイスラム系債権買取会社）
13．Labuan money broker or Labuan Islamic money broker （ラブアン・マネー・ブローカーまたはラブアン・イスラム・マネー・ブローカー）
14．Labuan fund manager （ラブアンのファンドマネージャー）
15．Labuan securities licensee or Labuan Islamic securities licensee（ラブアン・セキュリティーズ・ライセンス所有者、またはラブアンのイスラム・セキュリティーズ・ライセンス所有者）
※コード15への補足：ラブアンのセキュリティーズ・ライセンス保有者は、有価証券の投資や売買を目的として、有価証券に関する投資アドバイスや管理サービスを有償で提供することができます。ただし、ファンドマネージャーと違い、ラブア ン・セキュリティーズ・ライセンスの場合は、顧客の金銭や資産を預かることはできません。
16．Labuan fund administrator （ラブアンのファンドアドミニストレーター）
17．Labuan company management （ラブアン・カンパニー・マネジメント業）
※補足：このコード17が示す「カンパニー・マネジメント業」とは、会社に対する各種マネジメント的な業務全般を指しているのではなく、財務に関する処理サービス、たとえば、取引の確認、会計記録の作成、登記簿やファイルの管理、保管業務など、バックオフィスやミドルオフィスの処理業務が含まれると言われています。
18．Labuan International Financial Exchange （ラブアン国際金融取引所）
19．Self-regulatory organisation or Islamic self-regulation organisation （自主規制機関またはイスラム自主規制機関）
20．以下の事業活動のいずれか1つ以上を行うラブアン法人：
(a) administrative services （管理サービス）
(b) accounting services （会計サービス）
(c) legal services （法律サービス）
(d) backroom processing services （バックルーム処理サービス）
(e) payroll services （給与計算等のサービス）
(f) talent management services （人材管理サービス）
(g) agency services （代理サービス）
(h) insolvency related services （倒産関連サービス）
(i) management services other than Labuan company management under item 17 （上記のコード17が規定する財務管理以外のマネジメント・サービス）
21．Labuan entity that undertakes investment holding activities other than pure equity holding activities （長期的な投資目的で投資や資産保有活動を行うラブアン法人のうち、株式保有だけでなく、その他の種類の資産への投資・保有をも行っているラブアン法人）
22．Labuan entity that undertakes pure equity holding activities（長期的な投資目的で投資・資産保有活動を行うラブアン法人のうち、株式への投資・保有のみを行っているラブアン法人）
比較的利用しやすい業種とは
上記のコード1から19までの業種はラブアン金融庁からライセンスを取得することが必要な金融系の業種であり、ライセンスを取得するハードルがかなり高いです。
他方で、コード20については、ラブアン金融庁からのライセンスは不要な業種が多く含まれており、また、資産保有活動である21，22に関しても金融庁からのライセンスは不要と言われています。
したがいまして、一般的な事業会社がラブアン税制の適用を目指されるなら、まずは、設立するラブアン法人の業種をコード20や21・22に当てはまるように組み立てていただく方向性からご検討されるとよいかと思います。
なお、ご注意点としまして、ただ単にラブアン法人の登記上の業種をこのラブアン税制対象業種にすればこの条件を満たすことができるわけではなく、将来的に税務調査が入るようなことが会った場合には、御社ラブアン法人が実際にこのラブアン税制対象業種に該当する事業活動を行っているかという点も問われることになるかと思います。
コード20（旧コード23「Other Trading Activities」）について
コード20の（a）~（i）の各業種に関しては、2021年12月14日にラブアン金融庁から発行された「Frequently Asked Questions」というレターで補足説明がありました(※レター原文はこちら)。
そのレターによりますと、コード20の（a）~（i）の各業種は具体的にはそれぞれ下記のようなサービスを含むとされています。
a）Administrative services – 管理サービス
Administrative services mean services pertaining to employee management, payroll management, property management, human resource management, financial planning, contract or subcontract management, facilities management or proposal management.
（管理業務とは、従業員管理、給与管理、財産管理、人事管理、財務計画、契約・下請管理、施設管理、提案管理に関するサービス業務をいう。）
b）Accounting services – 会計サービス
Accounting services mean services pertaining to recording, analysing,
summarizing or classifying financial, commercial and business transactions and information of a person or business.
（会計サービスとは、個人または企業の財務、商業、事業取引および情報の記録、分析、要約、分類に関するサービスをいう。）
c）Legal services – 法律サービス
Legal services mean –
(a) conveyancing services;
(b) legal advisory services;
(c) litigation or legal representation services in any proceedings before any
court, tribunal or other authority; or
(d) legal dispute resolution services including alternative dispute resolution.
法律サービスとは以下のものを指す。
(a) 譲渡業務
(b) 法律アドバイザリーサービス
(c) 裁判所、法廷、その他の当局における訴訟または訴訟代理業務。
または
(d) 裁判外紛争解決を含む法的紛争解決サービス。
※熊木補足：不動産の譲渡に関連する法律サービスを指しているものと思われるが現時点ではまだ正確なことは不明。
d）Backroom processing services – バックルーム処理サービス
Backroom processing services are services relating to settlements of receivables and payables, clearance, record maintenance, regulatory compliance or information technology (IT) related services which are usually performed by administration and support personnel who do not deal directly with client.
（バックルーム処理サービスとは、通常は顧客と直接取引しない管理・サポート担当者が行っているような、債権債務の決済、清算、記録管理、規制遵守、情報技術（IT）関連のサービスを指す。）
e）Payroll services – 給与計算等のサービス
Payroll services mean services relating to (a) processing, calculation, payment and deduction of remuneration, benefits, tax and statutory payment; or (b) issuance of payslip and tax statement.
（給与計算等のサービスとは、(a)報酬、手当、税金、法定納付金の処理、計算、支払い、控除、または(b)給与明細書および税金計算書の発行に関するサービスをいう。）
f）Talent management services – 人材管理サービス
Talent management services mean the provision of human resource services to attract, onboard, develop, motivate, and retain employees.
（タレントマネジメント・サービスとは、従業員を集め、雇用し、育成し、意欲を高め、定着させるための人材サービスの提供を意味する。）
g）Agency services – 代理サービス
Agency services mean the provision of specific services on behalf of another group, business, or person pursuant to an agency agreement between the agent and its client.
（代理サービスとは、代理人と顧客との間の代理契約に基づき、他の団体、企業、または個人に代わって特定のサービスを提供することを意味する。）
h）Insolvency related services – 倒産関連サービス
Insolvency related service mean services related to administering company liquidations or winding up or personal bankruptcy.
（倒産関連サービスとは、会社の清算・清算や個人の破産の管理に関するサービスを意味する。）
i）Management services – マネジメントサービス
Management services cover the organization and coordination of activities of a business in order to provide services to the clients and usually consist of organizing, supervising, monitoring, planning, controlling and directing business’s resources such as human, financial and technology.
For avoidance of doubt, management services exclude company management as defined in Section 129 of the Labuan Financial Services and Securities Act 2010.
（マネジメントサービスとは、顧客へサービスを提供するための事業活動の組織化および調整を対象とし、通常、人的、財務的、技術的などの事業資源の組織化、監督、監視、計画、制御、および指示から構成される。
なお、ここでいうマネジメントサービスには、2010年ラブアン金融サービス証券法第129条に定義されている「カンパニー・マネジメント業」は含まれない。）
※熊木補足：「2010年ラブアン金融サービス証券法第129条に定義されている『カンパニー・マネジメント業』」とは、コード17の「カンパニー・マネジメント業」を指しているものと言われています。ラブアン税制上の優遇税率を享受するためには、この記事で説明しているラブアン税制対象業種に当てはまるのみでは足りず、経済的実体要件も満たす必要があるわけですが（※ご参照）、この点、コード17の「カンパニー・マネジメント業」の方が、コード20の業種よりも経済的実体要件を満たすためのハードルが高く設定されています。
2023年10月5日
司法書士 熊木 雄介
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