ラブアン法人とは?2023年9月現在のメリット・デメリットを詳しく解説!

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ラブアン法人とは?

通常のマレーシアの株式会社は、マレーシア会社法(Companies Act 2016)に基づいて設立され、マレーシア会社登録委員会(SSM)に登記されます。

一方、「ラブアン法人」と言われる株式会社は、マレーシア国内の国際経済特区ラブアンにおいて、ラブアン会社法(Labuan Companies Act) を根拠として設立され、ラブアン金融庁(Labuan Financial Servies Authority)に登記されることになります。一般のマレーシア法人に比べますと、税制やビザ制度の優遇などがある点が特徴です。株式会社のほか、ラブアン財団(Labuan Foundation)やファンドなどを組成することもできます。また、ラブアン金融庁が管轄していることが示すとおり、金融系の業種のライセンス制度が多く用意されており、銀行、保険、ファンドマネージャー、ファクトリング、リーシング、マネーブローカー等のような様々な金融ライセンスがあります。

ラブアンは、首都クアラルンプールやジョホールバルなどがある西マレーシアとは反対側の西マレーシア位置する小さな島です。

マレーシアの会社のうち、社名の末尾に「Sdn. Bhd.」や「Bhd.」が付されている会社は一般のマレーシア法人、末尾に「Limited」「Ltd.」「Co., Ltd.」「Inc.」などが付されている会社はラブアン法人である可能性が高いです。

マレーシア法人の場合、マレーシア会社登録委員会のウェブサイトにて、第三者でも登記情報を取得することができますが、ラブアン法人の場合は登記情報は一般公開されておらず、守秘性が高いことも特徴のひとつです。

ラブアン法人のメリット

通常のマレーシア法人と比較した場合、ラブアン法人には以下のようなメリットがあります。

1.就労ビザのハードルが低い

一般のマレーシア法人で就労ビザを申請する場合に比べて、ラブアン法人の就労ビザ申請は、申請要件がかなり低く設定されているうえに、申請前に必要な手続きも少ないですので、ビザを取得するまでの期間もかなり短くなります。

ラブアン法人で就労ビザを取得した場合も、何点かご注意いただく点はあるものの、クアラルンプールやジョホールバル、ペナンなどがある西マレーシア側に住むこともできます。

マレーシア法人の就労ビザと比べた場合のメリットを具体的に申し上げますと、
マレーシア法人が就労ビザを申請する場合、法人の銀行口座、高額の資本金(業種や資本構成などによって35万リンギ~100万リンギ)とその入金、マレーシア人スタッフ、実体のあるオフィス、地方自治体からの事業所ライセンスなどを先に取得/準備する必要があり、その後にようやく就労ビザ申請ができるという流れになります。
所要期間は、業種や資本構成等の様々な要素によって大きくことなりますが、第一ステップである法人設立手続きから、ビザ取得に至るまでには半年以上から1年、あるいはそれ以上かかることもありえますし、審査も厳格ですので、審査の担当官次第で基準が変わることもありますので、実際に申請してみないことにはどのようになるかわからないという怖さもあります。

他方で、ラブアン法人が就労ビザ申請をする場合、法人の銀行口座、口座開設、資本金の入金、オフィスなどはビザが認可された後でOKとされており、ラブアン法人を設立した後、すぐに就労ビザ申請へと進むことができます。求められる資本金額もマレーシア法人に比べるとかなり低いです(実務的には350万円くらいの資本金でOK)。
所要期間としては、第一ステップである会社設立から就労ビザ取得までは、3ヶ月前後から4ヶ月前後というあたりで収まることが多いです。マレーシア法人の就労ビザに比べると審査のハードルが低いですので、就労ビザ申請を行った後、審査官から追加書類の提出を求められたりすることも少なく、わりとスムーズに進むことが今のところは多いです。

2.優遇税制による低い税率、源泉税免除など。 ※ただし、2019年の大改正以降、不安点・不透明な状態が続いているため注意が必要。

ラブアン法人は、以下の条件を満たせば、ラブアン事業活動税法(Labuan Business Activity Tax Act:以下、「ラブアン税法」と表記します)に基づき、3%(事業会社の場合)または0%(資産管理会社の場合)という低い優遇税率を享受することができます。

条件1:
財務省が定めるラブアン税制の対象になる業種であること。ラブアン税制対象業種とは、「銀行業、保険業、ファンドマネージャー業等々のライセンス性の金融関係の業種」や「資産保有会社」のほか、「下記の9業種」とされています。

1)Administrative services 従業員管理、給与管理、財産管理、人事管理、財務計画、契約・下請管理、施設管理、提案管理などの管理サービス
2)Accounting services 会計サービス
3)Legal services 法務サービス
4)Backroom processing services 債権債務の決済、清算、記録管理、規制遵守、情報技術(IT)関連のサービス
5)Payroll services 給与計算サービス
6)Talent management services 人材管理サービス
7)Agency services 代理サービス
8)Insolvency related services 会社や個人の清算や破産の管理などの倒産関連サービス
9)Management services 人的、財政的、技術的資源などの事業資源の組織化、監督、監視、計画、管理、指導などのマネジメントサービス

条件2:
ラブアン島に経済的実体(Economic Substance)を有すること。

ラブアン島の経済的実体があるというためには、財務省が定めた下記要件を満たす必要があります。

1)ラブアン島において財務省が定める人数以上のフル勤務の従業員を有すること(よって、ラブアン島内にオフィス設置も必要)。

2)ラブアン島において財務省が定める金額以上の事業運営費(operating expenditure)の支出を行うこと。

求められる最低人数や金額は業種ごとに異なり、当ウェブサイト執筆時点(2023年9月)では、下記リンク先に記載されているものが最新版にあたります。なお、下記リンクは、前半はマレーシア語ですが、後半に同じ内容が英語で示されています。

ラブアン法人の経済的実体要件 – Labuan IBFCウェブサイトより。

例えば、上記の「下記の9業種」として上げた業種の場合は、2名以上のフル勤務の従業員をラブアン島に配置することが求められています。

例外的に、事業活動が「株式保有のみを行う資産保有会社」の場合は、ラブアン島に従業員を配置することは求められておらず、代わりに、経営管理(Management and control)がラブアンで行われていればよい、とされています。「経営管理がラブアン島で行われていること」を満たす条件としては、「少なくとも年に一度は取締役会をラブアン島で開催すること」、「登記住所がラブアンにあること」「居住会社秘書役がラブアン居住者であること」「会計記録、ビジネス記録、取締役会決議の議事録がラブアンに保管されていること」などとされています。

ラブアン法人のデメリット

1.今の時点ではまだ税制に不透明な部分が残っていること

2019年の税法改正以前は、事業会社の場合は「会計監査後の利益に対して3%」または「2万リンギット」、資産保有会社の場合は非課税、という非常にシンプルで魅力的な税制度でしたが、
2019年に行われた抜本的な改正により、上述の通り、一定の業種のみがラブアン税制の対象となり、かつ、経済的実体要件を満たしている場合のみ優遇的な税率(0%または3%)が適用される、という制度となりました。

ラブアン税制の対象業種に該当しない場合は、条件を満たしているかどうかにかかわらず通常のマレーシア税制(Income Tax Act)が適用されることになりますし、
ラブアン税制の対象業種である場合でも、経済的実体条件を満たしていない場合は、マレーシアの通常の法人税率である24%が適用されることになります。

優遇税制に条件が付されたことに加えて、本記事の執筆時点(2023年9月)においても未だに、ラブアン税制の対象業種や経済的実体要件に関して解釈が分かれる部分や不透明な部分が残っているうえに、マレーシアの場合、後から制定された法律や解釈が過去に遡って適用されるということも往々にしてありますので、ラブアン法人の税務は不安定な状況が続いています。

考えられる具体的なリスクとしては、
御社としては条件を満たしている前提で3%の税率で法人税申告を行っていたにもかかわらず、将来税務調査が入った際にその時点のルールや解釈で否認されてしまうというような可能性があります。
その場合、24%の税率が遡って適用され、支払っていた法人税との差額+ペナルティを請求されるかもしれません。

このようなリスクがあることから、弊社の最近のクライアント様の多くは、あえて上記のラブアン税制対象業者や経済的実体要件を満たさず、通常のマレーシアの税率で申告を行い、ビザのメリット部分のみを享受しているというケースが多いです(将来的に税務が安定すれば、上記の条件を満たしたうえで3%で申告することを検討されるのはありだと思います)。

2.一般のマレーシア法人に比べると維持費が少し高くなる場合がある

一般のマレーシア法人と違い、ラブアン法人は毎年法人自体の更新の手続きが必要となり、法人の更新料というものを支払うことが求められます。更新料は年間でUSD 800~USD900ほどになりますので、法人の維持費が10万円ほど高いことになります。

また、マレーシアで法人を設立した場合、マレーシア法人でもラブアン法人でも、Company Secretary(会社秘書役)という登記・会社法の専門家を必ず1名以上任命する必要があるのですが、ラブアン法人の場合、ラブアン信託会社(Labuan Trust Company)の資格をもった会社(またはそのグループ会社やOfficer)のみが会社秘書役になることができるという制度となっています。一般のマレーシア法人の会社秘書役資格を持つ会社は非常に多くあって希少性が少ないため価格が非常に安いのに対して、ラブアン信託会社は数が限られており報酬額も高く設定されていますので、この点でも毎年の維持費が高くなる傾向があります。

ただし、一般のマレーシア法人の場合、ラブアン税法が適用されるラブアン法人には適用されない税務(予定納税、源泉税、Tax Agent(税務代理人)による税計算など)が発生し、その税務処理の費用が加算されますので、その点まで考慮しますと、マレーシア法人とラブアン法人とでどちらが年間の維持費用が高くなるかはケースバイケースと言えます。

なお、就労ビザの申請や維持に関する手間・コストまでをも考慮した場合で比較しますと、ビザ維持のコストはマレーシア法人の方が大きくなることが多いですので、トータルで比べますとラブアン法人の方が安くなるケースも多くあります

3.オフィスに関する制限

ラブアン法人はラブアン島内でのオフィス設置に関しては特に制限はないですが、ラブアン外のオフィス設置には制限が設けられています。

まず、ラブアン法人の本店(運営事務所: Operating Office)はラブアン内に設置する必要があります。

ラブアン島に本店を設置した後のみ、ラブアン当該に「マーケティング・オフィス(Marketing Office」という支店を開設することが認められています。

ただし、マーケティング・オフィスとは、顧客とのミーティングや、見込み客と関係性を作ることのみに利用することが認められており、マーケティングオフィスにて販売活動を行うことや会計記録等の会社の重要書類を保管することは認められません。

さらには、マーケティングオフィスを設置するためには、まずはマーケティングオフィスの設置申請をラブアン当局に対して行う必要があり、その認可を得てから初めてマーケティングオフィス設置が可能となります。マーケティングオフィス許可は毎年更新する必要があり、許可の更新費用としてUSD 2,500 前後の費用が必要となります。(ですので、クアラルンプール側にオフィスを設置したい場合は、ラブアン法人のマーケティングオフィスとして設置するのではなく、一般のマレーシア法人をクアラルンプール側に設立し、そのマレーシア法人名義でオフィスを開設されるケースも多いです)

4.マレーシア居住者との取引に関する制限

ラブアン制度の創設以来、ラブアン法人はマレーシア居住者との取引やリンギットでの取引に制限があったのですが、2019年以降の一連の法改正により、ラブアン法人もマレーシア居住者・法人との取引やリンギットでの取引の制限が大幅に緩和されました。

これにより、「ラブアン法人を利用してマレーシア国内向けにビジネスができる」との案内をしているウェブサイト等も見受けられますが、実際のところは、国内との取引が自由にできるようになったといえるほどにはなっておりません。

といいますのも、この改正と引き換えに、ラブアン法人と取引をしたマレーシア居住者側に不利な制限が加えられました。その制限とは、マレーシア居住者がラブアン法人へ支払ったサービス料等の対価のうちのわずか3%しか損金処理できない、というものです。つまり、マレーシア居住者・法人側からしますと、ラブアン法人のサービスを利用して対価を支払ったとしても、それを自社の法人税申告をする際にわずかな一部しか損金として処理できないため、マレーシア国内業者の同様のサービスを利用した場合と比べると税務上不利になります。したがいまして、ラブアン法人としてはマレーシア国内向けに顧客を拡大することは難しいかと思います。(ですので、マレーシア国内向けにビジネスを行いたい場合は、ラブアン法人とは別に一般のマレーシア法人を設立し、マレーシア法人名義で国内向けにビジネスを行うケースが多いです)

 

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それではまた。

2023年9月21日

司法書士 熊木 雄介
Email: info@office-kumaki.name

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※ 弊社は、毎月複数件のラブアン法人設立、就労ビザ申請、法人口座開設をお手伝いさせていただいております。また、我々司法書士には守秘義務がありますので、安心してご相談くださいませ。

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